遊び印第14集より


アイディアは電車の中

 私は大阪に小さな書斎を持っている。駅から歩いて1分。近くに日本三大祭の大阪の天満宮があり、その隣に落語の小屋「天満天神・繁昌亭」なるものが2年前にできた。歩いて5分のところだ。日本一長い商店街もすぐそば。便利だし、大きな道から一つ入っているだけなのにとっても静かだ。
 午前中、自宅でその日のことを済ませ電車で出かける。乗る時間は35分間。その電車の中でいろんなアイディアを考える。だから書斎行きはいつも往きも帰りもワクワク。数多くの印や絵のアイディアは電車の中から生まれた。何か催しをはじめる時、計画を練る。そんなとき電車に乗るのがなお楽しい。
 アイディアをまとめるために特別に「案々帳」という小冊子を作っている。それは1ページに9個のマスを作り、そのマスの中に思いつくまま絵や言葉を書いていく。落書きのオンパレードと思ってもらったらいい。アイディアの根のところがわかればいいので、あまり詳しくは書かない。一つのものが、まとまっても、まとまらなくても気にしない。次のとき続きを考えればいい。いろんな落書きが別の落書きとあとで結びついて思わぬアイディアになるところが面白い。満員の時も坐っていく時も、頭の中はアイディア作りで忙しい。外の景色も見ているようで見ていない。また電車の揺れがいい。ガタンガタン、ゴトンゴトン。この一定の音が心を落ち着かせる。

 到着したらそこで打ち切り「ハイおしまい」となるところが私に合っている。これ以上長くなると頭も退屈してくるようだ。汽車だとそうはいかない。時間がありすぎるからだろうか、初めから考える気がおこらない。不思議なものだ。アイディアは電車の中。これに慣れてくると自宅では考えられなくなった。だから書斎へは何の用事がなくても毎日行くことにしている。私にとって電車の中は「動くもう一つの書斎」であり、「アイディア作りの快感に浸る壺の中」かもしれない。