遊び印第13集より


市郎兵衛の印

 岩手県一関市の「呉服のたかはし屋」九代目の高橋純一さんが改名したと風のうわさが舞い込んできた。
仕事はやり手で、アイデアマンで勉強家で、友人に人望もあつい彼が選んだのは、祖父の名前「市郎兵衛」。
ペンネームでなく戸籍まで変えたという。彼のことだから遊び心が一本通っていて、名前の響きもさわやかさで嬉しさが込み上げてきた。
私は早速、二顆の印を彫り次の日の宅配便に乗せた。後日、彼から喜びの電話をもらい自分ながらこのタイミングに心が躍った。
愉快な一日を過ごしたような気分だった。

速達の印

東京の川部重臣さんの速達の印は、広告やICの仕事をされているので、速達印の思いや使い方を詳しく説明され、出来上がりの印のラフスケッチ(案)をいくつか見せてほしいと言われるのです。
こうした案はすぐ決まるのですが、なかなか手につきません。私には案の通り決められたものを彫ることは楽な作業なのですが、楽しい印彫りではありません。いつもその時の気分で、行き当たりばったりで彫っているのでむしろ苦痛なのです。
そんなわけで後回し後回しになり、二年が経ちました。川部さん遅くなってスミマセン、忘れてはいなかったのです。

小さな注文者

知人の松下さんから「私の姪の印を注文したい」と話があった。
電話でもファックスでもイメージを言ってもらえたら、思ったものに近いものができますよと返事をしておいたが、本人がお会いして注文したいという。
五月の末、連れられてきたその子は私が想像していたよりずっと幼い女の子だった。小柄な体から、私は小学の四〜五年生かと思ったら、中学一年になったばかり(!)。印は松下さんが入学祝いにプレゼントするという。声は太くハキハキしている。
さて、どんな印を彫りましょう、とたずねると一冊の本と自分で描いたスケッチを目の前に並べた。その絵は楽器のようであり人のようでもある。本は日本の妖怪特集で、その中の「琵琶ぼくぼく」という琵琶の妖怪だった。その印に自分の名前を江戸時代の文字(勘亭流)で入れて欲しいという。
私は嬉しくなった。麻利子ちゃんは妖怪展を見て好きになり、いつも妖怪の絵ばかり描いているという。私はこんな個性的な子供が、もっともっと個性的な人になって欲しいと強く思い、「今の教育ではこの子のためになるのだろうか」などと思いながら快く彫ることを約束したのだった。

ポルノの印

東京の亮子さんはスポーツクラブで知りあった彼に誕生お祝いの印をプレゼントすることにしました。
その印に対する希望は多く、まず彼はアダルトビデオや本のコレクターであり。ビールが大好き。また二人の共通の趣味はサラブレットだと分かり意気投合、それ以来サラブレット「ノーザンダンサー」という40年前の競走馬に行き着き、今ではその馬に関する文献収集をライフワークにするそうです。
このノーザンダンサーとアダルト本、ビール、3つのものを合体させた印を作って欲しいとのこと。さてさてこんな希望には何故か燃えるところがあり、出来上るまでに考える楽しい時間を過ごしました。
(シンボルを入れるか迷いました)