遊び印第12集より


普通の人

 ある大きな篆刻展に出かけた。主催者は大阪で上位の篆刻家。私は正式な篆刻の中でも流派の違いや知人も少ないのでスイスイと入っていく。「遊び印」が篆刻の分野に入っていないからだろうか。
 会場で私も加わって5、6人がお茶を飲み、雑談が始まった。30分ほどいろんな話で盛り上がっているうち、60才くらいの篆刻家が話をさえぎってあらためて私に言うのだった。
 「もぐら庵さんって普通の人ですねェ」
 突然のことだったが、その言葉が妙に嬉しかった。
 「普通の人」このことは、私の憧れ。
 「作品は自画像」というが、作る者と作者は似ているものでそれはそれで正統なのだが、作ったものと作者が違えば違うほど理想だと思っているところがある。
 例えば、作られたものは、変わったり、面白かったりするのに、作者を見ると普通の顔、普通の姿、普通のしゃべり、特長は見当たらない。それがいい。
 以前、人気人形作家・与勇輝展を見たことがある。量と質の高さ、素晴らしい技術、見るための長い列、人の熱気。その中で一番感動したことは、出口附近でサインをしているオープンシャツ姿の与勇輝さんだった。
 まったく「普通の人」なのだ。この人を見て、誰が有名な人形作家だとわかるだろうか。私は嬉しくなった。人の間で、出過ぎもせず、引っ込みもせず、淡々と自分の仕事をする普通の人…。このギャップに憧れている。