遊び印第11集より


虎のヒゲ

 私の個展を初めて見た人は、数多く飾られた墨彩画を見て「あら、もぐらさんは印ばかり彫られると思っていたら、絵も描かれるのですねェ」と言われる。そして時々「何が本職ですか」と問う。
 考えると数多く彫るのは篆刻であり、面積の広さなら墨彩画だし、時間がかかるのは陶印や陶のものだったりする。だから何がメインだか自分でも分からない。しかし皆、それぞれに瞬間的であるが作っていて楽しいから続くのだろう。そして、どれも「私らしい」というか、「私」が出ていたら「よし」としている。
 随分昔、紙粘土で虎の置物を百個ばかり作ることになった。しかも三日間! お正月の飾りの虎なので、暮れの忙しい時だ。私は紙粘土で一つ一つ作っていく。そばで妻がコタツの中に入れたりドライヤーを使って乾かす。
 そんな忙しさを見かねた妻の友人が「私に手伝うことがあったら何でも言ってね」と声をかけてくれた。その人は人形や創作ものの先生をしていて、手先は私よりずっと器用だ。三日間と限定されていたので、言葉に甘えて手伝ってもらうことにした。「さて、何を手伝ってもらおうか」私と妻は考える。「出来上がった虎にヒゲを付けてもらおう!」と、妻との意見も合う。
 出来上がった金ピカのおどけた虎の口の横にキリで穴を開け、数本のグラスファイバーを差し込む。「こうしてボンドをつけて…」「ハイ、突っ込んで…」と、説明も簡単だ。友人は十分納得をして「こんな簡単なこと、OKョ」と、自宅へ運んでいった。
 そして次の日の夕方、ヒゲを付けた虎がわが家へ戻ってきた。ズラリと並んだ虎を見ると、虎は虎でもヒゲのところが「私」ではない。「あれ、違うなァ…」妻も「ホント、違うねェ」あきらかにヒゲが違っている。
 単純にボンドを付けて穴に差し込むだけなのに、何が違うのだろう?考えてみるがもちろん結論は出ない。それでもボンヤリと思うことは、友人はキレイに入れようと何かが働き、私はヒゲは付いていればいいと思って無造作といい加減さが働く。計算された計算、計算されない計算。真面目か不真面目か。いい加減か、そうでないか…、この違いは小さいようで大きいのかもしれない。